【エッセイ】星野道夫との出会い

私が惹かれて止まない写真家に星野道夫という人がいます。
今回はそんな星野道夫との出会いを作ってくれた1冊の雑誌、COYOTE(コヨーテ)の話をエッセイ形式で書いてみました。

星野道夫との出会い

小さな頃、家の近所にアウトドア専門店ができた。
二階建てのその店は少しかわっていて、入ってすぐ入り口の横に2階まで届く大きな大きな本棚があった。

高いところにある本は、備え付けのはしごに登って取るような巨大な本棚である。

そこには、アウトドアに関する本がところ狭しと並んでいた。
幼い頃から本好きだった私は毎週その店に通いつめ、本を読んでは売り場に設置してあるテントを眺めて帰るということを繰り返していた。

今思えば、駅前の本屋にはない本がたくさん並んでいることが面白くて仕方なかったのだと思う。

星野道夫に出会ったのも、その店だった。

彼がどういう人生を歩んだのか私は理解していなかったけれど、一人極北の地で荒野を旅するその姿に、どうしようもなく惹かれたことを覚えている。

COYOTE(コヨーテ)という雑誌の星野道夫特集をおこずかいで買って、夢中になって読んだ。

その本は今も本棚にある。

大人になってから、星野道夫がテレビ番組の撮影中にクマに襲われて亡くなったことを知った。

それは当時、私が毎週楽しみに見ていたTBSの動物番組だった。
あの時、テレビに映ったみのもんたと雨宮塔子アナウンサーが神妙な顔で、撮影中に誰かが亡くなったと言ったことを覚えていた。

あれは、星野道夫のことだったのだ。大人になってから、それを理解した。

いや、成長する過程、どこかで、あの時番組で亡くなったと言っていたのは星野道夫のことなのだと分かっていた。

ただ、認めたくなかった。

アラスカの地に、もうあの人はいないのか。

どこかで、彼はずっと、今も一人で極北の地を旅しているのだと思っていた。

雪深い山を歩き、カヌーで川を渡り、凍るような夜空を見ながら、カリブーやアザラシの群れを見つめているのだと思っていた。

そう思いたかった、というほうが正しいのかもしれない。

今でも、あの時買った雑誌を本棚から取り出して読む。

幼い頃冒険家に憧れた私は、いつの間にか普通の大人になってしまい、会社からお給料をもらって仕事をしている。

私は寒いのが苦手なので、アラスカで生活することはまずないのだけれど、それでも憧れを感じずにはいられない。

地球に生まれた一つの命として、自然に向き合う。
そんな生き方は、シンプルで何よりも人間らしいと思ってしまうからだ。